何が起きたか

EU指令2024/825、通称EmpCo(Empowering Consumers for the Green Transition)が2026年9月27日から加盟国で適用される。2024年3月に発効し、加盟国は2026年3月27日までに国内法化を完了。適用開始後の移行期間はない。

この指令は既存の不公正商慣行指令に「いかなる場合も不公正とみなす行為」のリストを追加する形をとる。カーボンクレジットに関わる部分の核心は次の一点だ。製品のバリューチェーン外でのオフセットに基づき、その製品が温室効果ガスの面で中立・削減・プラスの影響を持つと主張することを禁止する。「クライメートニュートラル」「CO2ニュートラル」「カーボンポジティブ」「気候中立配送」といった文言が、クレジットのみを根拠とする限り対象になる。

あわせて、根拠を示さない「エコ」「グリーン」「環境にやさしい」などの一般的表現、第三者認証のない自社作成の環境ラベル、実施計画と独立検証を伴わない将来目標の表明も禁止される。違反時の制裁は加盟国が定めるが、複数の解説は年間売上高の最大4%の制裁金に言及している。

なお、2023年に提案された「グリーンクレーム指令」は2025年6月に撤回されたが、EmpCoはこれとは別の、すでに成立した法律であり、影響を受けない。

なぜ重要か

この規制は、オフセットの需要を消すものではなく、オフセットの使い道を変えるものだ。

これまで企業向けカーボンクレジットの需要の一部は、製品やサービスに「カーボンニュートラル」のラベルを付けるために存在していた。9月27日以降、EU域内の消費者向けにその使い方はできなくなる。一方で、自社の削減努力を示したうえで「バリューチェーン外の削減にも貢献している」と説明すること(いわゆる貢献主張)は禁止されていない。企業のクレジット購入は「製品を中立にするため」から「排出削減の補完として、削減量を明示して貢献するため」へ移る。

これは、クレジットの「質」に対する要求が消費者保護法の側からも強まることを意味する。主張の根拠として使うクレジットが後に問題視されれば、環境規制ではなく不公正商慣行として摘発される可能性がある。

日本への含意

直接の対象は、EU域内の消費者に商品やサービスを提供する事業者だ。日本企業でも、EU向けに「カーボンニュートラル○○」を掲げる商品を持っていれば、9月27日までに表示の見直しが要る。企業規模による例外はない。

日本国内では現時点で同等の一律禁止規定はないが、景品表示法の優良誤認の枠組みでは「根拠のない環境表示」がすでに問題になり得る。EUの線引きは、国内の環境表示の実務にも早晩参照されるだろう。

森林由来クレジットを供給する側から見れば、買い手の説明責任が重くなるということは、測定・検証・情報開示が整った案件に需要が寄るということでもある。ラベル目的の安価な需要が減り、貢献主張に耐える案件への選別が進む。

用語解説: 貢献主張(Contribution Claim)

自社の排出を相殺して「中立」だと主張する代わりに、「自社の削減目標とは別に、○トンの排出削減・吸収に資金を提供した」と説明する主張の形。SBTiが提唱する「バリューチェーン外の緩和(BVCM)」の考え方と整合し、クレジットの使用を透明にする。EmpCo適用後のEUで、クレジットに関する主張として残る主な形態の一つとされている。