何が起きたか
Carbon Heraldは2026年10月9日、チリが「質の高い」炭素市場への移行を加速させ、国内の炭素課税に対する相殺(オフセット)の適用範囲を広げるための規制上の経路を整えたと伝えた。報道では、国際的に発行されたカーボンクレジットを国内制度の下で使えるようにする整理が進み、あわせて日本側との取引に向けた案件の流れが通りやすくなったと位置づけられている。
チリは、固定発生源に対する課税を含む環境関連の税制度を運用しており、排出者が一定の条件を満たすプロジェクト由来の削減量を用いて納税額を相殺できる仕組みを設けてきたと説明されてきた。これまでは国内で実施された案件が中心とされてきたが、今回の動きは、国外で発行された単位や国際的な基準に沿った単位を取り込む余地を広げるものと読める。
ただし、現時点で参照できる報道からは、対象となるクレジットの種類や認証制度、品質に関する要件、相殺に使える上限、適用開始の時期、パリ協定6条に基づく承認や計上調整をどう組み合わせるのかといった具体的な条件までは確認できない。日本との取引についても、関与する主体や対象分野、契約の形は明らかでない。チリ政府の公表文書や、二国間の協力枠組みの公式情報に当たって前提を確かめる必要がある。
なぜ重要か
第一に、炭素価格制度の相殺枠が国際クレジットに開かれる点である。国内税制の義務履行に外部の単位を使えるようになれば、クレジットには規制に裏づけられた需要が生じる。自主的な購入に依存する民間市場と比べ、需要の安定性という意味合いが異なる。一方で、品質の低い単位が流入すれば制度全体の信頼が損なわれるため、受け入れ基準の設計が焦点になる。
第二に、受け入れ国と供給国の関係が双方向になりうる点である。チリは再生可能エネルギーや自然を基盤とする取り組みの潜在力が大きいとされ、クレジットの供給側として語られることが多かった。国内で需要側の枠が整えば、同じ国の中で供給と需要が併存することになり、国外へ移転する単位と国内で使う単位の切り分けが課題となる。パリ協定6条の下で他国へ移転する場合には、発行国側で計上を調整する手続きが関わるためである。
第三に、日本との接点である。報道は日本との取引に向けた環境が整ったと位置づけているが、具体的な枠組みが二国間クレジット制度(JCM)によるものか、民間同士の売買か、6条2項に基づく別の取り決めかは記事からは判別できない。枠組みの違いは、算定上の扱いや対外的な説明の仕方に直結する。
日本への含意
日本はJCMを通じてパートナー国との協力を進めており、チリも協力先の一つとして位置づけられてきた。相手国側で国内制度が整うことは、案件の経済性や継続性に影響しうる要素である。相手国が自国の税制や目標達成のために単位を使う方針を強めれば、国外への移転に充てられる量や条件が変わる可能性もある。
企業の担当者にとっては、海外クレジットを検討する際に、発行制度、相手国の承認の有無、計上調整の扱いを区別して確認する姿勢が引き続き求められる。相手国の国内制度で使える単位と、日本側で説明に用いる単位は、必ずしも同じ性質とは限らない。
自治体や生産者にとって直接の影響は限定的だが、森林や土壌を扱う案件が各国の制度でどう位置づけられるかは、国内の方法論を考える際の参照材料になる。現段階は制度の輪郭が報じられた局面であり、公式資料で条件が確認できてから具体的な判断に進むのが現実的といえる。
用語解説: 炭素税のオフセット(相殺)制度
炭素税を課す国や地域で、納税義務者が自らの排出量に応じた税額の一部を、認証された排出削減・吸収プロジェクトの成果で肩代わりできるようにする仕組みを指す。排出者にとっては、設備投資による直接削減と、クレジット購入による相殺を比較し、費用の低い手段を選べる余地が生まれる。制度の運営側にとっては、国内の削減プロジェクトへ資金を誘導する手段ともなる。
設計上の論点は複数ある。使用できるクレジットの発行制度や方法論をどこまで認めるか、相殺に充てられる割合に上限を設けるか、国外で発行された単位を認める場合に二重計上をどう防ぐか、といった点である。とくに国外単位を受け入れる場合は、パリ協定6条に基づく発行国側の承認や計上調整と整合させる必要があるとされる。
また、相殺が広く認められすぎると、課税による直接の削減誘因が弱まるとの指摘もある。逆に要件を厳しくしすぎれば、使えるクレジットが乏しく制度が機能しない。品質の確保と流動性の両立をどう図るかが、各国の制度運用で共通する課題といえる。