何が起きたか

日本の環境省とインドの環境・森林・気候変動省(MOEFCC)は、2026年9月28日にニューデリーで「India Forum: Advancing International Carbon Markets for Climate Ambition, Sustainable Development and Shared Prosperity」を共催する。運営は海外環境協力センター(OECC)と世界銀行が担う。

インドは日本のJCM(二国間クレジット制度)のパートナー国ではない。JCMは2013年のモンゴルを皮切りに東南アジア・アフリカ・中南米の約30か国と協定を結んできたが、人口と排出量で世界最大級のインドとは二国間の枠組みがなかった。今回のフォーラムは、その空白を6条市場の文脈で埋めに行く動きと読める。

なぜ重要か

背景には、国内の需要が先に立ち上がってしまったという事情がある。

GX-ETSは2026年度から第2フェーズに入り、直接排出量が3か年度平均で10万トン以上の事業者、約300〜400社に参加が義務づけられた。2026年度の排出枠価格は上限4,300円、下限1,700円のコリドーで運用される。不足分の補填にはJ-クレジットとJCMクレジットが使えるが、各年度の実排出量の10%が上限で、2020年以前の取組に由来するJCMクレジットは原則使えない。

10%という数字は小さく見えるが、対象企業の排出量は日本全体の相当部分を占める。仮に対象排出量が数億トン規模であれば、クレジットの潜在需要は年間数千万トンになる。一方、JCMの累計発行量はまだその一部に届いていない。J-クレジットの森林由来分も、2024年10月時点で累計約105万トンにとどまる。

つまり、制度が使用を認めたクレジットの量に対し、実際に存在するクレジットが桁で足りない。日本政府がインドをはじめ新たな供給国との対話を急ぐのは、この需給の構造が理由だ。

日本への含意

供給不足は価格に出る。GX-ETSの排出枠がコリドー上限の4,300円に張り付く局面では、JCMクレジットの価格も上限に引き寄せられる。海外の6条クレジットがトンあたり18〜41ドル(約2,700〜6,100円)で取引されているシンガポールの入札結果と並べると、日本の上限価格は国際価格と大きく乖離していない。海外の供給者から見て、日本市場は価格面で魅力のある買い手になり得る。

一方で、日本企業が海外の森林由来クレジットを調達する場合、JCMの枠組みに乗るか、6条2項の相当調整をホスト国と個別に交渉するかの二択になる。前者は制度が整っているが対象国が限られ、後者は自由度が高いが政府間協定に依存する。9月28日のフォーラムは、後者の選択肢をインドについて開こうとする試みであり、その帰結は他の非JCM国との交渉にも影響する。

森林分野に絞れば、日本国内の2030年度森林吸収量目標は約3,800万トン。この目標とGX-ETSのクレジット需要を国内森林だけで支えることは想定されておらず、海外の植林・森林管理由来クレジットは制度上、最初から前提に組み込まれている。

用語解説: JCM(二国間クレジット制度)

日本が途上国に脱炭素技術・資金を提供し、実現した排出削減・吸収を両国で分け合う仕組み。パリ協定6条2項の実施形態の一つとして位置づけられ、日本のNDC達成に算入できる。2026年度からのGX-ETSでは、J-クレジットと並んで償却に使用可能なクレジットとされた。