何が起きたか

Carbon Heraldは2026年9月9日、英国がインドの国内排出量取引制度、いわゆるCCTSを、英国版の炭素国境調整措置(CBAM)における有効な炭素価格付けの仕組みとして認定したと伝えた。報道の趣旨に沿えば、インド国内ですでに炭素価格を負担した産品について、英国に輸出する際の負担が調整される道が開かれることになる。

炭素国境調整措置は、域外から輸入される鉄鋼やセメントなどの炭素集約的な産品に対し、輸入国内で同種の製品が負担している炭素コストとの差を埋める仕組みとして設計されている。その際、輸出国側ですでに支払われた炭素価格を差し引く「控除」の扱いが焦点となる。控除が認められるかどうかは、相手国の制度が炭素価格として機能していると輸入国が判断するかにかかっている。

なお、認定の具体的な範囲や適用条件、対象となる品目、実際の控除計算の方法については、今回の報道からは詳細を確認できない。制度の運用ルールは英国政府の公表資料に沿って確認する必要がある。

なぜ重要か

第一に、国内制度の設計が輸出競争力に直結する構図が、より鮮明になった点である。インドのCCTSは、事業者ごとに排出原単位の目標を課し、達成状況に応じてクレジットを取引させる仕組みとして整備が進められてきた。総量規制型の排出量取引とは組み立てが異なるが、その制度が輸入国側から炭素価格として評価されたとすれば、国内制度を持つこと自体が対外的な意味を帯びる。

第二に、炭素価格の相互承認という論点である。国境調整の仕組みが各国で広がるほど、どの制度をどこまで炭素価格として認めるかという判断が、貿易上の実質的な条件になっていく。承認の可否は技術的な照合作業に見えて、実際には二国間の交渉と政策判断の産物でもある。

第三に、新興国側の制度整備を促す誘因として働く可能性がある。国境調整の対象になる国にとって、国内で炭素価格を課す仕組みを持つことは、税収を自国にとどめる手段にもなり得る。制度をつくらなければ、炭素コストは輸入国の歳入になるという整理である。

日本への含意

日本は2026年度からGX-ETSが本格段階に入り、排出量取引の枠組みを持つ国として位置づけられる。EUのCBAMに続いて英国も国境調整を導入する流れの中で、日本の制度が輸入国側からどのように評価され、どの範囲で控除の対象となるかは、鉄鋼やアルミなどの輸出を抱える産業にとって実務的な関心事になる。

輸出企業の側では、製品ごとの排出量の算定と、国内で負担した炭素コストの証明が求められる可能性がある。国境調整の運用では、既定値ではなく実測に基づく数値を示せるかどうかで負担が変わる設計が採られることが多く、供給網をさかのぼった排出データの整備が前提になる。

また、農林水産分野は現時点で国境調整の直接の対象品目とはされていないが、資材や輸送、加工に関わるコストを通じて間接的な影響が及ぶ余地はある。制度の対象範囲は各国で見直しが続いており、認定や控除の動きを個別に追う姿勢が求められると言えるだろう。

用語解説: 炭素国境調整措置(CBAM)

炭素価格の水準が異なる国から輸入される産品に対し、国内製品との負担の差を埋める措置。国内の生産者が炭素コストを避けるために生産を海外へ移す、いわゆるカーボンリーケージを防ぐ狙いがある。輸出国側ですでに炭素価格が支払われている場合には、その分を差し引く仕組みが設けられるのが一般的で、どの国のどの制度を炭素価格として認めるかが運用上の論点となる。