何が起きたか

Verraは2026年9月15日、企業のバリューチェーン内部で実施される気候対策の成果を定量化し、検証・認証するための枠組みとして、スコープ3スタンダード(S3S)プログラムを立ち上げたと公表した。事業者はこの枠組みに沿って、スコープ3単位(S3U)と呼ばれる単位を生み出せるようになる。1単位は、バリューチェーン内で削減または除去されたCO2換算1トンに対応すると説明されている。

同団体によれば、スコープ3排出は自社の操業ではなく、調達先や顧客といった取引の連なりから生じる間接排出であり、企業の総排出量のうち75%超を占めるのが一般的とされる。また、世界の大企業のうち40%超が、スコープ3を含む実質ゼロ目標を掲げているという。その一方で、バリューチェーン内への投資が生んだ削減・除去を、独立した立場から包括的に認証する仕組みは存在しなかったとしている。

今回公表されたのはバージョン1で、Verraのレジストリにプロジェクトを掲載する段階までが対象となる。用いられるのはVCSプログラムの方法論を転用した初期の一群で、農地管理の改善と低炭素コンクリートの製造が含まれる。今後は林業、産業用燃料、スーパーポリュタント、冷凍・冷蔵といった分野へ広げる方針が示された。登録や妥当性確認・検証の受付、S3Uの初回発行は、バージョン1の更新以降になるとされる。さらにバージョン2では、対象プロジェクトの影響を受けた製品と企業のバリューチェーンとの結びつきをどう示すか、報告に用いる単位をどう発行するかについての要件が示される予定だという。

この枠組みは、2022年に始まったVerraのスコープ3イニシアチブに参加した100名を超える専門家の議論を経て形づくられ、2022年から2026年にかけて多様な企業・団体とともに試行が行われた。CEOのマンディ・ランバロス氏は、新プログラムが「企業の気候対策に残る溝を埋めることを目指す」と述べている。

なぜ重要か

第一に、スコープ3をめぐる説明責任の土台に関わる点である。サプライチェーンの排出量は、平均的な排出原単位に活動量を掛けて算定される場面が多く、個々の支援事業が生んだ効果を切り出して示す共通の物差しは乏しかった。標準化された算定・報告と追跡の仕組みが加われば、バリューチェーン内の取り組みに資金を向ける際の判断材料が整理される可能性がある。

第二に、既存のクレジット市場との関係である。S3SプログラムはVCSプログラムと並走する設計とされ、事業によってはS3Uか通常のカーボンクレジットのいずれかを発行し得るという。資金調達の選択肢と買い手の層が広がる一方で、同じ成果が二重に主張されない整理が実務上の焦点になると考えられる。

第三に、企業側の報告枠組みとの接続である。Verraは、SBTiの企業ネットゼロ基準、GHGプロトコル、ISOの関連基準、AIMプラットフォーム、TCATとの両立と補完を意図したと説明している。ただし、発行された単位を各社の開示や対外的な主張にどこまで用いられるかは、それぞれの基準側の判断に委ねられる部分が残る。制度の立ち上げと、報告上の受容とは、切り分けて見るのが妥当だろう。

日本への含意

国内でも、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の整備が進むなかで、スコープ3の算定と説明の質が問われる場面が増えている。とくに食品、飲料、繊維、建設など、排出の大半が調達側に集中する業種では、供給者と共同で削減に取り組む「インセッティング」型の投資をどう評価するかが課題となってきた。今回の枠組みは、その評価軸を外部の認証に委ねる選択肢が現れたことを意味する。

企業の担当者にとっては、初期の対象が農地管理と低炭素コンクリートである点が実務的な手がかりになる。自社の調達構造のどこに削減余地があり、どの方法論が適用され得るのかを整理する作業は、制度の成熟を待たずに着手できる。もっとも、現時点ではS3Uの発行が始まる前の段階であり、費用や手続きの負担、国内事業への適用可能性は今後の文書で確認する必要がある。

自治体や生産者にとっては、取引先企業からの資金が営農の改善に向かう経路が増え得るという見方ができる。ただし、対象となるには活動量や実施状況の記録が前提となり、検証に耐えるデータ管理が求められる。国内にはJ-クレジット制度という別の選択肢もあり、どちらの枠組みが地域の条件に合うかは個別に見極める段階といえる。

用語解説: インセッティング

企業が自社のバリューチェーンの内部で排出削減や炭素除去に取り組み、その成果を自社のスコープ3排出量の低減として扱う考え方。外部の事業から生じたクレジットを購入して相殺するオフセットとは、成果が生じる場所が異なる。原料の産地や加工工程といった実際の調達先で対策を行うため、供給網の強靱化や品質面の利点が併せて語られることもある。一方で、どの範囲までを自社のバリューチェーンとみなすか、効果をどう測定し二重計上を避けるかといった論点が長く議論されてきた分野でもある。