何が起きたか

Carbon Heraldは2026年10月2日、国際海事機関(IMO)が、船舶に搭載する二酸化炭素の回収・貯留設備(OCCS)を備えた船を対象に、暫定的な安全ガイドラインの検討に着手したと伝えた。報道は、設備を搭載した船舶の安全確保に関する枠組みづくりが始まった段階であることを示す内容である。

OCCSは、船のエンジンやボイラーから出る排ガスに含まれる二酸化炭素を船上で分離し、液化などの処理を経て船内のタンクに一時的にためたうえで、寄港地で陸上側に引き渡すことを想定した仕組みを指す。船という限られた空間で化学吸収剤や高圧・低温の流体を扱うため、従来の舶用機器とは異なる安全上の論点が生じるとされる。

なお、検討を担う委員会や小委員会の名称、作業の工程、指針が対象とする設備の範囲、採択の見通しといった具体的な内容は、本報道からは確認できない。IMOの会合文書や会合結果の公表資料に当たって前提を確かめる必要がある。

なぜ重要か

第一に、技術の実装より先に安全の枠組みを整える順序が示された点である。船舶のGHG削減手段としては、燃料の転換、運航の効率化、風力の補助利用などが議論されてきたが、既存船にも後付けできる可能性がある手段としてOCCSへの関心が高まってきた。搭載船が増えてから個別に対応するより、共通の指針を先に置くほうが、船主や造船所にとって投資判断の前提が定まりやすい。

第二に、暫定(interim)という位置づけの意味である。国際的な規則づくりでは、知見が十分に蓄積していない段階でまず暫定的な指針を示し、実船での経験を踏まえて本格的な基準へ移行する進め方がとられることがある。したがって今回の動きは、最終的な規制の内容が固まったことを意味するものではなく、今後の改定を前提とした出発点と読むのが妥当と考えられる。

第三に、安全以外の論点が残る点である。船上で回収した二酸化炭素を誰の排出削減として扱うか、陸揚げ後の輸送や貯留をどう確保するか、国境を越える移動をどの条約の下で整理するかといった問題は、安全指針とは別の議論の場に属する。安全面が整っても、これらが解けなければ実運用には進みにくいという見方がある。

日本への含意

日本は造船・海運・舶用機器の各分野で国際的な位置を占めており、IMOでの基準づくりは国内事業者の設計や運航に直接関わる。船主や海運会社の担当者にとっては、暫定指針がどの設備構成を想定し、どのような検査や乗組員の訓練を求める方向にあるのかを、審議の段階から把握しておく意味がある。

港湾を管理する自治体にとっても、回収した二酸化炭素の受け入れ設備、荷役時の安全管理、周辺地域への説明といった課題が将来の検討対象になりうる。現時点では指針の内容が明らかでないため、具体的な設備計画に落とし込む段階ではないが、国際的な議論の方向を追っておくことは判断の土台になる。

水産や物流に関わる事業者にとっては、海上輸送のコスト構造が中長期に変化しうる要因の一つとして受け止められる。OCCSが実用化すれば搭載や運用の費用が運賃に反映される可能性がある一方、普及の規模も時期も現段階では見通せない。国内では船舶分野のGHG対策が国土交通省を中心に進められており、IMOの審議結果が国内の運用に反映される流れを踏まえ、公式の会合結果の公表を確認しながら情報を更新していく姿勢が現実的といえる。

用語解説: OCCS(船上CO2回収・貯留)

船舶の排ガスから二酸化炭素を分離・回収し、船内で一時的に保管したうえで陸上側へ引き渡すことを想定した仕組みの総称である。陸上の発電所や工場で用いられる回収技術を船に適した形へ小型化する試みが各国で進められており、アミン系の溶液に吸収させる方式などが検討されている。

船上に導入する場合の論点は多い。回収装置や液化設備が占める容積と重量は貨物の積載量に影響し、運転に必要な熱と電力は燃料消費を増やす方向に働く。さらに、吸収剤の漏えい、低温・高圧の二酸化炭素を扱う機器の破損、閉所での滞留による酸欠といった危険性があり、消火や換気、警報の設計、乗組員の訓練が求められる。回収した二酸化炭素を港でどう受け取り、どこへ運び、最終的にどこに貯留するかという陸側の連鎖が整っていなければ、船上の設備だけでは完結しない点も特徴である。国際的には、海洋投棄を規律するロンドン条約・議定書との関係や、排出削減量の計上方法の整理も課題として挙げられている。