何が起きたか
Carbon Heraldは2026年9月18日、Climeworks Solutionsと日本航空(JAL)が、国際民間航空機関(ICAO)の枠組みであるCORSIAに適合する炭素除去(CDR)の契約を結んだと伝えた。報道は、この合意を世界で初めてCORSIAに適合する形で成立した炭素除去の取引と位置づけている。
CORSIAは、国際線の運航から生じる排出のうち、基準を超える分について、運航者が所定の要件を満たす排出削減単位を取得して調整する仕組みである。これまで対象として想定されてきた単位の多くは、再生可能エネルギーや森林保全など、排出を抑えたり回避したりする類型が中心だった。大気中の二酸化炭素を回収して貯留する除去型の活動が、この制度の要件を満たす単位として実際に取引された事例は限られてきた。
もっとも、現時点の報道で確認できるのは、両社が合意に至ったこと、その単位がCORSIAの適合要件を前提としていることまでである。契約の規模、対象となる期間、引き渡しの時期、単位を発行する認証プログラム、価格条件といった具体は明らかにされていない。制度上の位置づけを含め、実像は今後の両社およびICAO側の公表資料に沿って確認する必要がある。
なぜ重要か
第一に、航空分野の需要が除去型の活動に向かう経路が、制度の枠内で示された点である。航空は電化や燃料転換の難しさが指摘されてきた分野であり、持続可能な航空燃料(SAF)の普及には時間と費用を要する。その間の対応として、規制上の義務履行に使える単位に除去が含まれるかどうかは、供給側の事業計画に影響し得る。
第二に、任意市場と義務的な枠組みの接続という論点である。これまで炭素除去の購入は、企業が自主的な目標のために行う取引が中心だった。国際的な制度の要件に沿った調達が成立すれば、買い手にとっての購入の意味づけが整理され、長期契約を結ぶ判断材料が増えるという見方ができる。
第三に、除去の品質をめぐる評価である。CORSIAで用いられる単位には、追加性や二重計上の防止、相当調整の適用など、複数の要件が課される。除去型の活動がこれらをどう満たしたのかという運用上の整理は、他の運航者や他分野の買い手にとっても参照点になると考えられる。
日本への含意
日本の航空会社が当事者となった点で、国内の関係者にとっては身近な事例といえる。今後、他の運航者が同様の調達を検討する場合、契約条件や単位の要件をどう確認するかという実務が共通の課題になる。
企業の担当者にとっては、除去クレジットを調達する際に、どの制度の要件に適合する設計になっているかを契約段階で確かめる姿勢が参考になる。任意の開示に用いるのか、規制上の義務履行に充てるのかで、求められる要件は異なり得るためである。認証プログラム、対象国での相当調整の有無、貯留の期間と責任の所在といった項目を記録に残しておくことが、後の説明に資すると見込まれる。
自治体や農林水産業の生産者にとっては、除去への需要が制度の裏づけを伴って形成され得るという点が関心事になる。国内でも森林吸収やバイオ炭などの活動がJ-クレジット制度などを通じて評価されてきたが、国際的な枠組みの要件は測定や検証の水準が異なる場合がある。どの枠組みが地域の条件に合うかは、個別に見極める段階といえる。
用語解説: CORSIA
国際民間航空のカーボン・オフセットおよび削減スキーム(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)の略称で、ICAOが定めた国際線の排出に関する枠組みである。各運航者は、定められた基準値を超える分の排出について、要件を満たす排出削減単位を取得して調整することが求められる。単位として使えるのは、ICAOの技術諮問機関が審査し理事会が承認した認証プログラムから発行されたもので、追加性、二重計上の防止、発行国による相当調整の適用などの条件が課される。参加は当初の段階では自主的とされ、その後の段階で対象が広がる設計になっている。