何が起きたか
Verraは2026年10月13日、同団体が運営するVCSプログラムの方法論のうち、改良型森林管理(IFM)に関するVM0010が、シンガポール政府によって国際カーボンクレジット(ICC)枠組みの適格方法論として認められたと発表した。VM0010は、伐採の対象であった森林を保護林へと転換する活動を対象とする方法論と説明されている。
今回の追加により、同枠組みで使える森林分野のVCS方法論は3件となった。すでに、森林減少・劣化からの排出削減を扱うVM0048と、新規植林・再植林・植生回復を扱うVM0047が対象に含まれていた。
シンガポールのICC枠組みでは、炭素税の納税義務を負う企業が、適格なクレジットを用いて課税対象排出量の最大5%まで相殺できるとされる。同国はこれまでに12のホスト国と実施協定を結んでおり、どの方法論が適格となるかは、シンガポールと各ホスト国の合意によって協定ごとに異なるという。Verraは、同国の国家環境庁(NEA)との対話を続け、VCSの方法論や登録簿の基盤が枠組みの中で活用されるよう支援していくとしている。
なお、公表文からは、VM0010がどの実施協定の下で具体的に使えるのか、適用開始の時期や追加的な要件があるのかまでは読み取れない。実務上の判断には、シンガポール側の公式資料の確認が要る段階といえる。
なぜ重要か
第一に、規制に裏づけられた需要の対象が広がる点である。自主的な購入が中心のボランタリー市場と異なり、炭素税の納税額に直結する用途では、買い手にとって調達の必要性がより明確になる。適格方法論の一覧に加わることは、その方法論で組成された案件の需要見通しに影響しうる。
第二に、森林分野の方法論が複数そろってきた点である。森林減少の回避、植林・再生、そして管理方法の改善という異なる性格の活動が、いずれも相殺に使える枠組みの中に位置づけられつつある。とくにIFMは、伐採計画の変更という事業者の意思決定を前提とするため、ベースラインの置き方や、他地域へ伐採が移るリーケージの扱いが論点として指摘されてきた分野である。国の制度が受け入れる条件は、品質をめぐる議論の参照点になりうる。
第三に、二国間の合意が前提になっている点である。適格な方法論が協定ごとに異なるという整理は、クレジットの性質が発行制度だけでなく、実施国と利用国の取り決めによっても規定されることを示す。買い手は、方法論の名称だけでなく、どの国の案件がどの協定の下で認められているかを確かめる必要がある。
日本への含意
日本は二国間クレジット制度(JCM)を通じてパートナー国と協力しており、企業がクレジットを調達する際の選択肢は複数ある。シンガポールの枠組みは、国の炭素価格制度が民間認証の方法論を条件付きで取り込む一例であり、制度設計を比較する材料になる。
企業の担当者にとっては、海外クレジットを検討する際に、発行制度と方法論の版、実施国の承認状況、相殺に使える上限や用途の違いを分けて確認する姿勢が引き続き求められる。ある国の税制で使える単位が、別の文脈でそのまま説明に使えるとは限らない。
自治体や林業関係者にとっては、森林管理の方法の変更をどのように定量化し、クレジットとして扱うかという考え方が参考になりうる。国内でも森林由来の吸収量の算定が議論されており、伐採計画の変更をベースラインにどう反映するかは共通の論点といえる。現段階は適格方法論が追加された局面であり、具体的な案件の条件が公表されてから判断に進むのが現実的と考えられる。
用語解説: 改良型森林管理(IFM)
既存の森林における管理方法を変更することで、炭素の蓄積量を増やしたり、排出を減らしたりする活動の総称である。伐採の強度や周期を見直す、伐採対象であった林分を保護区に転換する、伐採時の残存木へのダメージを抑える、といった手法が含まれる。新たに木を植える植林と異なり、すでに森林である土地を対象とする点が特徴とされる。
算定上の中心的な論点は、ベースラインの設定にある。介入がなかった場合にどの程度の伐採が行われていたかを示す必要があり、過去の実績、法令上の許可内容、事業計画などが根拠として用いられる。この前提が実態より多い伐採を想定していれば、削減量が過大になるとの指摘が出やすい。
あわせて、ある区域で伐採を止めた結果、需要が別の森林に移る可能性(リーケージ)や、将来の伐採・災害によって蓄積が失われる可能性(非永続性)への備えも求められる。制度によっては、バッファープールへの一定量の拠出や、長期のモニタリングが条件とされている。