何が起きたか
ボランタリーカーボン市場の認証制度を運営するVerraは2026年9月30日、プロジェクト審査の優先処理を試行する取り組みについて、参加できる案件の範囲を広げると発表した。この試行では、事業者からの審査依頼を優先列に移すことで、審査の着手を早めることが想定されている。
これまで対象は、2回目以降の検証承認申請に限られていた。2026年10月14日以降は、登録の申請、回数を問わない検証の申請、登録と検証を同時に行う申請も対象に加わる。あわせて、参加の障壁を下げ手続きを整理するための変更も示された。自然を基盤とする気候変動対策(NCS)のプロジェクトについては、同時に優先化を申請できる件数に上限が設けられる。処理能力の管理が理由とされている。また、優先化の依頼に対応する専任の窓口が設置される。
手数料は、想定される発行量に応じた優先化手数料と、発行手数料に充てる預け金の二本立てである。優先化手数料は、VCSおよびCCBSの場合、登録が2万ドル、検証が1万5000ドル、登録と検証の同時申請が2万5000ドルとされ、VCSとCCBSの併用ではそれぞれ2万5000ドル、2万ドル、3万ドルとなる。預け金は、NCSおよびCCBSの案件で想定発行手数料の50%または5万ドルのいずれか低い額、エネルギー・産業分野の案件では50%または2万5000ドルのいずれか低い額である。これらは2027年3月までの試行期間に適用され、その後に見直される可能性があるとされる。試行は2025年11月下旬に始まっており、Verraは優先化手数料による収入を、試行に参加していない案件も含めた処理期間の短縮に向けて審査体制へ再投資すると説明している。
なぜ重要か
第一に、審査の滞留が市場全体の課題として続いていることを示す動きである。クレジットの発行までに要する期間は、事業者の資金計画に直結する。優先化という選択肢が用意され、対象が広げられた経緯は、需要の存在が確認されたためと説明されている。
第二に、費用負担の構造が明示された点である。優先処理に追加の費用を支払う仕組みは、資金力のある事業者が有利になるとの見方もあり得る。一方でVerraは、得られた収入を審査基盤の改善に充てる方針を示しており、全体の処理期間の短縮につながるかどうかは今後の運用を見て判断することになる。
第三に、登録段階が対象に加わった意味である。これまでの検証中心の運用に比べ、事業の初期段階から処理時間の見通しを立てやすくなる可能性がある。ただしNCS案件には件数の上限が設けられるため、分野によって利用のしやすさに差が生じることも考えられる。
日本への含意
国内の事業者がVCSなど国際的な制度を用いる場面は、海外での森林保全や再生、国内案件の国際展開など限られた範囲にとどまる。それでも、クレジットを調達する側として審査の滞留状況を把握しておくことには意味がある。供給が遅れれば、調達計画や価格の前提が変わり得るためである。
企業の担当者にとっては、購入を検討するクレジットがどの段階にあるのか、登録済みか検証待ちかといった状態を確認することが実務の出発点になる。優先処理の利用の有無が発行時期にどう影響するかは、案件ごとに事業者へ確認する必要がある。
自治体や農林水産業の生産者にとっては、国内のJ-クレジット制度と国際制度とで、審査の体制や手数料の考え方が異なることを押さえておきたい。いずれの制度でも、施業の記録や対象区域の情報、モニタリングのデータをそろえておくことが審査の円滑化につながる点は共通している。制度側の運用変更を追いつつ、自らの書類整備を進める姿勢が現実的といえる。
用語解説: VCS(Verified Carbon Standard)
Verraが運営する、温室効果ガスの排出削減・吸収量を認証するボランタリーカーボン市場の制度である。森林の保全や再生、再生可能エネルギー、メタンの回収など分野ごとに方法論が定められ、事業者はそれに沿って計画を作成する。手続きは大きく、事業内容を審査して制度に登録する段階と、実際の削減・吸収量を独立した第三者が確認する検証の段階に分かれ、検証を経てクレジットが発行される。検証は一度で終わるものではなく、事業期間中に繰り返し行われる。あわせて、気候・地域社会・生物多様性への配慮を評価するCCBSという枠組みも運用されており、両方の認証を併せて取得する案件もある。近年は、方法論の妥当性や削減量の算定精度をめぐる議論を受け、基準の改定や外部機関による評価への対応が進められている。